更新日:2020年8月2日
以前より注目されている再生医療ですが、中国で耳の再生に成功しました。
マウスの背中に移植するなど動物での取り組みはいくつかありましたが
今回のように人間での取り組みに成功したのは初めてのことです。
一方で、安全性やコストなど多くの課題が残されていると専門家は述べています。
例えば、札幌医科大学の医師はこのように述べています。
「実現はまだはるか遠い先のことであろうと思います。 (中略) もしどこかでその手術が始まったとしても、それに飛びつくと痛い思いをする可能性も十分ありますのでご注意ください。」
その理由は、以下の札幌医科大学のページの『4.再生医療の可能性』をご確認ください。
<札幌医科大学医科大学形成外科 小耳症の治療>
https://web.sapmed.ac.jp/prs/shojisho/about/uc1n6k0000000khw.html
本ページでは、CNNで発表されたニュースを自分なりに訳してみました。
上記の点を踏まえたうえで、参考までにご確認ください。
<ニュース全文>Scientists grow new ears for children with defect https://edition.cnn.com/2018/01/29/health/growing-ears-on-humans-study/index.html
3-Dプリンタと再生医療の技術を組み合わせて耳の再生に成功
ハイライト- 小耳症の子供たちのために耳を培養する実験的な取り組みを行なった。
- 専門家はこの取り組みは多くの課題と制約があると話している。
中国の研究者は3-Dプリンタと再生医療の技術を組み合わせて、「小耳症」と呼ばれる片方の耳が欠けた5人の子供たちに新たな耳を培養して移植を行った。
研究者は、自身の論文で小耳症患者から軟骨細胞を採取し、耳の形に培養する方法を詳細に説明した。
この新たな軟骨は患者の正常な方の耳の形に合わせて3Dプリンタで作成された。
そして、培養された耳を子供に移植し、耳を再生させた。
研究者はそれぞれの患者に2年半にわたって術後の状態を確認し
「私たちは、その患者独自の耳の形をデザインし、培養し、再生させることに成功した」
と論文で述べられている。
「しかしながら、実際の医療現場に正式に導入されるには更なる取り組みが必要不可欠である」
とも述べている。
「将来的には、最大5年間は術後の軟骨(再生された耳)の状態や臨床結果を経過観察する必要がある。」
小耳症は耳の形成が不完全もしくは全くない状態で生まれた症状のことで、難聴も伴う。
この症状は民族にもよるが、約5000人に1人の割合で発症すると言われている。
民族別の割合では、ヒスパニック、アジア、ネイティブアメリカン、そしてアンデスの順で多いと言われている。
通常、小耳症の治療法は耳の再建治療であり、その方法は多種にわたっている。
例えば、人工の物を使って耳の形を作る「プラスチック・イヤー」と呼ばれるものや患者の肋軟骨を使って再建する方法がある。
「再生医療の業界では、軟骨を使って小耳症の耳を再建する取り組みを20年以上行ってきた。」
ニューヨークのコーネル大学でバイオメディカル・エンジニアリングについて研究するLawrence Bonassar教授はこのように述べている。
「今回の研究は再生医療が耳の再建の実現に近づいたこと、そして近い将来に他の軟骨組織においても臨床現場で実用化されるであろうということを示している。」
「再生医療による形成外科治療は現在の医学的治療においてベストのものと言えるだろう。」
コンセプト自体は目新しいものではない
「今回の注目されている取り組みはずっと知られていたアイデアでもある」
今回の研究に参加していたボストンのMassachusetts Eye and Ear病院の形成外科であるTessa Hadlock教授はそう述べた。
例えば、1997年には人間の耳の軟骨組織から形成した耳をマウスの背中に移植することに成功した。
「外科医は患者から軟骨組織を採取し、細胞を抽出し、培養させるアイデアは長年持っていた。」
とHadlock医師は述べた
「長年、私たちは新たな組織を作り出すために、人間から細胞を採取し、ポリマーで培養させようとしてきた。
そして、長い間動物に実施してきており、いくつかの研究ではFDA(アメリカ食品医薬品局)から認可を受けている。」
だからHadlock医師は
「コンセプト自体は目新しいものではない」
と述べている。
人間に培養した耳を移植したのは初めて
新たな論文が示している通り、今回の取り組みで画期的なことは初めて5人の患者に培養した耳を移植し、その後の経過も良好だったことである。
つまり、人間に移植された耳が正常に再生されたのは初めてのことである。
今回の研究は6歳の女の子、9歳の女の子、8歳の女の子、7歳の男の子、7歳の女の子に対して行われ、全員片耳の小耳症の患者である。
研究者はCTスキャンと3Dプリンタを使い、細胞が育つ足場(土台)を患者の正常な耳の形の3D構造と全く同じように作り出した。
それぞれの患者の軟骨から軟骨細胞を採取し、その細胞を足場に埋め込み、3ヶ月かけて培養した。
次に、軟骨のフレームワークを各患者ごとの独自の形に作成し、5人の患者に移植した。
移植後の経過観察の時間は患者ごとに様々であり、長くて半年フォローアップしたケースがある。
全ケースのうち4人は、軟骨細胞を移植後6ヶ月で新しい耳が再形成されていた。
また、そのうち3人の患者は形、サイズ、角度どれをとってみても正常な方の耳と一致していた。
手術後の移植した耳の経過観察は慎重に行なったが、5ケースのうち2人の耳の形は術後にわずかにゆがんでしまった
と研究者は説明した。
耳の再生医療を臨床の場に応用したという点で大躍進をもたらす結果となった、
と同時に、いくつかの懸念点も出てくるだろう、と述べた。
「いつくかの懸念点の1つは、患者から軟骨細胞を採取して培養する際、細胞分裂を促すための刺激を与えないといけないことである。」とHadlock教授は述べる。
「刺激物を与える時、その分裂部分から細胞が壊れていく危険性がある。
別の言い方をすると、制御不能なガン化細胞を作り出すことになる。」と彼女は述べた。
「アメリカではこの作業の際は特に厳重に注意して行ってきた。」
もう一つの懸念点は、小耳症と診断された彼らの軟骨細胞をどのように使うのかという点である、とHadlock教授はそう加えた。
「彼らは耳の状態が未発達である小耳症の症状を持って生まれた。
恐らく通常の健康的な軟骨細胞とは大きく異なってくる」Hadlock教授はそう述べた。
「これに関してはまだまだ私たちには情報が足りない。」
多くの課題が残っている
臨床の場で実用化されるにはまだ多くの課題が残っている。
最近の小耳症の治療に関する医療コストが見直されているわけではないが
専門家は聴力改善と耳介再建のための複数の手術が必要とされるため、非常に高い治療費がかかると予測している。
更に、研究者は今回の5人の患者を最大5年は定期的に経過観察し、その結果を継続して発表していくと述べている。
耳の再生治療が広く普及されるには耳の再建と定期的な経過観察が大きな課題になっていると
軟骨の組織工学の開発を行う3-Dバイオ会社を立ち上げたBonassar教授は述べている。
耳を再生させる方法は非常に複雑である。
患者から採取した軟骨組織、軟骨組織が成長する再生細胞、そして再生細胞の土台となる足場、この3つの特殊な生体物質を組み合わせ、移植前に確実に耳が再建されるように3カ月間培養する必要がある。
これらの治療を何万人もの小耳症患者に適用できるようにすることが特に大きな課題である。
とBonassar教授は述べた。
「次に、再生組織の足場として使われる物質は長い間(長くて4年は)身体の中に残っている」と彼は述べた。
「これらの物質が最終的に身体にどのような結果をもたらすかがわかるまで、4年もしくは5年はその後もしっかり経過を観察する必要があるだろう。」
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